研修の背景と理念
デジタルトランスフォーメーション(DX)は現代のビジネス環境において必須の経営戦略となっていますが、多くの企業では「DXを推進できる人材が不足している」という課題に直面しています。特に深刻なのは、技術だけでなく事業や業務の理解をもとに、組織横断的に変革を推進できる「DX推進リーダー」の不足です。
この研修プログラムは、「IT知識がない社員にはDX推進は無理」という誤解を解き、現場に精通した人材がDX推進の中核となれるよう設計されています。DXの本質は高度なITスキルではなく、「構想力」「実行力」「定着力」にあります。これらは非IT人材でも適切な研修により身につけることが可能なスキルです。
研修の全体像と目標
DX推進リーダーに求められる3つのコアコンピテンシー
- デジタル変革構想力 – デジタル技術を活用して業務・事業をどう変革するかを考え抜く力
- 変革推進力 – 構想を現場で実行に移すリーダーシップと実践力
- デジタル変革定着力 – 一過性で終わらせず、企業文化に変革を根づかせる力
受講対象者
- 部門のマネージャーや中堅社員でDX推進を担当する方
- 現場業務に精通しているが、IT知識は必ずしも豊富ではない方
- 組織変革に意欲があり、周囲を巻き込む素質がある方
研修の到達目標
- 自部門におけるDX機会を特定し、具体的な変革案を構想できる
- DXプロジェクトを計画し、関係者を巻き込んで推進できる
- 変革を組織に定着させ、継続的な改善サイクルを回せる
3日間のカリキュラム詳細
第1日目:デジタル変革構想力の習得
午前:DXの本質理解(09:00-12:00)
セッション1:DXの基礎と変革マインドセット(90分)
- DXとは何か、なぜ必要なのか(事例を交えて)
- 技術主導ではなく、価値創出視点のDXとは
- DX推進に必要なマインドセットの転換
セッション2:顧客価値の再定義とジャーニーマッピング(90分)
- 顧客体験(CX)の視点からのビジネス再考
- 顧客ジャーニーマップの作成手法
- デジタルタッチポイントの特定と改善機会
演習: 自社または架空企業の顧客ジャーニーマップを作成し、デジタル化による改善ポイントを特定する
午後:デジタル変革の構想力強化(13:00-17:30)
セッション3:業務プロセスの可視化とデジタル化機会(90分)
- 業務プロセスの可視化手法
- デジタル化による効率化・価値創出ポイントの特定
- 非ITパーソンでもわかるデジタル技術の活用パターン
セッション4:DXアイデア発想ワークショップ(120分)
- デザイン思考を活用したアイデア発想法
- 実現可能性と効果のマトリクス評価
- アイデアのブラッシュアップと優先順位付け
セッション5:DX構想のビジュアル化と共有(60分)
- DXアイデアを伝えるためのビジュアル表現技法
- 非IT部門に伝わる説明の組み立て方
- 費用対効果の概算と説明方法
成果物: 「DXアイデア企画書」の作成(自部門の業務におけるDX機会を特定し、具体的な変革案を1つ以上構想する)
第2日目:変革推進力の習得
午前:DXプロジェクトの設計と管理(09:00-12:00)
セッション1:DXプロジェクト設計の基本(90分)
- DXプロジェクトの特性と従来型プロジェクトとの違い
- MVPアプローチ(小さく始めて成果を確認しながら進める方法)
- スコープ、期間、リソース、予算の設定方法
セッション2:ステークホルダー分析と巻き込み戦略(90分)
- DXにおける主要ステークホルダーの特定
- 抵抗勢力の見極めと対応策
- 説得と交渉のフレームワーク
演習: 自部門のDXプロジェクトにおけるステークホルダーマップ作成と、各ステークホルダー向けの巻き込み戦略を策定
午後:変革実行力の強化(13:00-17:30)
セッション3:クロスファンクショナルな協働の進め方(90分)
- 部門間の壁を越える協働の仕組み
- ITと事業部門のコミュニケーションギャップの埋め方
- 効果的なミーティング・ワークショップの設計と運営
セッション4:変革抵抗への対処とレジリエンス(90分)
- 組織における変革抵抗のメカニズム理解
- 抵抗への建設的な対応方法
- 失敗や挫折からの学びと回復力
セッション5:DXプロジェクト計画の具体化(120分)
- プロジェクト計画書の作成方法
- タイムラインとマイルストーンの設定
- リスク分析と対応策
成果物: 「DXプロジェクト計画シート」の作成(第1日目に考案したDXアイデアの実現に向けた具体的な計画)
第3日目:定着力と実践計画の策定
午前:変革の定着と文化醸成(09:00-12:00)
セッション1:組織文化変革の基本(90分)
- デジタルカルチャーの特性と醸成ポイント
- 小さな成功体験の積み重ね方
- ロールモデルと成功事例の共有・横展開
セッション2:DX成果の評価と可視化(90分)
- DXにおけるKPI設計の考え方
- 定量・定性両面からの評価方法
- データに基づく継続的改善サイクルの回し方
演習: DXプロジェクトの評価指標(KPI)設計と、モニタリングの仕組み構築
午後:アクションプランの策定と発表(13:00-17:30)
セッション3:周囲のデジタルスキル育成とナレッジ共有(90分)
- チームメンバーのデジタルリテラシー向上手法
- 効果的なナレッジ共有の仕組み
- 学習する組織文化の醸成法
セッション4:DX推進アクションプランの策定(120分)
- これまでの学びを統合した自部門DX推進計画の作成
- 3ヶ月、6ヶ月、1年の時間軸での実行計画
- サポート体制とリソースの確保計画
セッション5:アクションプラン発表とフィードバック(90分)
- 参加者による「DX推進アクションプラン」の発表
- 相互フィードバックとブラッシュアップ
- 研修後のフォローアップ計画
成果物: 「DX推進アクションプラン」の完成(構想・推進・定着の3要素を含む、自部門における実践計画)
企業規模・業種別のカスタマイズポイント
研修効果を最大化するために、企業の規模や業種に応じた調整が重要です。
中小企業(従業員100名未満)向けカスタマイズ
中小企業では意思決定が速く、一人が複数の役割を担うことが多いため、より実践的かつコンパクトな内容が効果的です。
重点スキル:
- 小規模予算でのDX実証実験アプローチ
- 経営者視点での投資対効果説明
- 外部ベンダー活用とマネジメント
カリキュラム調整例:
- DX投資の費用対効果シミュレーション演習を強化
- 外部ベンダー選定と協働のロールプレイを追加
- 限られたリソースでの優先順位付け演習を重点化
中堅企業(従業員100〜999名)向けカスタマイズ
中堅企業では組織階層が存在し、部門間連携や既存システムとの整合性が課題となります。
重点スキル:
- 部門横断的なプロジェクト推進
- 既存システムとの連携戦略
- 中間管理職の説得と巻き込み
カリキュラム調整例:
- 既存プロセス棚卸しとDXマップ作成ワークを追加
- 部門間連携のケーススタディを強化
- 中間管理職向けプレゼンテーション演習を組み込む
大企業(従業員1,000名以上)向けカスタマイズ
大企業では組織が複雑で意思決定に時間がかかるため、戦略的なアプローチと政治的な調整力が必要です。
重点スキル:
- 社内政治の理解と影響力行使
- 全社戦略との整合性確保
- 複雑なステークホルダー管理
カリキュラム調整例:
- 社内政治を乗り越えるシナリオワークを追加
- 複雑な組織におけるDX推進の成功事例研究を強化
- グローバル展開を視野に入れたガバナンス視点を組み込む
効果的な研修運営のための実践ポイント
参加者の事前準備
研修効果を高めるために、参加者には以下の事前準備を依頼します:
- 自部門の業務フロー図の作成または収集
- 直近1年間で感じた業務上の課題リストアップ(デジタル化で解決できそうなもの)
- 簡単な事前アンケート回答(デジタルツール活用状況、DXへの期待と不安など)
研修環境の整備
- オンライン・対面のハイブリッド環境を整備(状況に応じて選択可能に)
- グループワーク用のオンラインコラボレーションツール準備(Miro、MURALなど)
- 事例検索やアイデア検証のためのインターネット環境確保
講師・ファシリテーターの要件
効果的な研修運営のためには、以下の要件を満たす講師・ファシリテーターが望ましいでしょう:
- DX推進の実務経験を持つが、高度なIT専門知識よりもビジネス変革の視点を重視できる人材
- 参加者の業界知識を持ち、現場課題と結びつけた説明ができる人材
- ワークショップ運営とファシリテーションに長けた人材
フォローアップの仕組み
研修効果を定着させるために、以下のフォローアップ施策を推奨します:
- 研修後1ヶ月、3ヶ月時点でのオンラインフォローアップセッション
- 参加者同士の情報交換・相談ができるオンラインコミュニティの構築
- 成功事例の共有会(ショートケース発表会)の定期開催
研修効果の測定方法
この研修プログラムの効果を測定するためには、以下の指標を活用することが有効です:
短期的評価指標(研修直後〜1ヶ月)
- 理解度・満足度アンケート(5段階評価)
- DXアイデア企画書・プロジェクト計画の品質評価(審査基準に基づく)
- 行動変容意向調査(研修で学んだことをどう活かすか)
中期的評価指標(3〜6ヶ月)
- DXプロジェクト立ち上げ率(研修参加者のうち実際にプロジェクトを開始した割合)
- 初期成果の創出状況(小さな成功事例の件数)
- 周囲への影響度(巻き込んだ人数、共有したナレッジの活用状況)
長期的評価指標(1年〜)
- DXプロジェクトの成果指標達成率
- 組織文化変革度合い(定点観測アンケート)
- DX推進による事業インパクト(コスト削減額、新規売上、顧客満足度向上など)
おわりに:真のDX推進リーダー育成に向けて
DX推進は、IT部門だけの仕事ではありません。むしろ現場を知る非IT人材こそ、リアルな課題に即した変革を構想し、実行に移す「本質的なDX推進リーダー」になり得るのです。
この3日間の集中研修プログラムを通じて、参加者は「ITに詳しくないから」と一歩引くのではなく、「現場を知っているからこそできるDX」があることを理解し、自信を持って行動を始めることができるでしょう。
DXの成功は技術以上に「人」に依存します。この研修が、組織内に点在する変革の種を育み、DXという大きな波を乗りこなす力強いリーダーを生み出す一助となることを願っています。
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